夢から覚めてしまわぬように





side/O



 

「てめーはどんだけ寝たら気が済む!?」


ジャンの怒鳴り声で目が覚めた。
そうだ、ジャンがいたんだ。眠すぎて忘れてた。
久しぶりに何もない週末、合わないスケジュールを無理矢理合わせたのに。
俺は眠りっぱなしだった。
剥いだ毛布をぽいと投げ捨て、ジャンはそっぽを向いてベッドに座った。

拗ねている。このままだと多分怒って帰ってしまうだろう。
しかし睡魔は執拗に追い掛けて来て、俺はまた瞼が重くなってくる。
俺は手を伸ばし、束ねていないジャンの髪をそっと引っ張る。
それでもジャンはこっちを向かない。いつも俺のことをガキ扱いするくせに、こういう時だけは子供より強情なのだ。

「ジャーン、」

眠くて舌っ足らずな声になった。うまく口が回らない。
別に、俺だって好きで眠いわけじゃない。次の休みには二人であれをして、ここに行って…そういう計画は星の数ほどあるのだ。でも中々叶わない。俺もジャンも忙しすぎる。
でもさ、俺は思うんだけど、

「なあ、こっち見ろよ」

ジャンを呼ぶ。本当に怒ったのならこいつはすぐに部屋を出ていく。だからこれはデモンストレーションなんだって知っている。
俺は起き上がれないまま、緩慢に寝返りを打つ。

なんだっけ。そう、俺はずっと思ってるんだけどさ。


もし二人ともただの学生とかだったりして。忙しくもなんともなくて、毎日ずっと一緒にいられたらさ。

 

俺はジャンの腰に腕を回す。
「怒ってんの?」
抱き着いてそう言ってしまえば、ジャンがそれ以上怒れないのを知っている。
卑怯?何とでも言えばいい。
お前の考えてることなんかわかる。

油断した隙をついて、俺はジャンにスープレックスをかける。でも体が重いせいでうまくかからなくて、俺たちはひっ絡まったままベッドに落ちた。
ジャンの腹筋が痙攣したみたいに震えて、笑ってるのがわかる。
ほら、お前の機嫌を直すのなんか簡単だ。

お前とずっと一緒だったら、きっとそんなにあれがしたい、これがしたいなんてこと言わなくなる。

だってもう希みが叶っちゃってるからさ。


叶わないから、いろんな不満が出るし、尚更欲が出る。

 

だから今は俺の我が儘聞けよ。

 

俺はジャンの首に腕を回して、どうしたって拒否できない距離で、卑怯に囁く。


ジャン、そんな渋い顔したって駄目だよ。
俺は始めからお前を罠にかけようとしてんだから。今更気付いたって遅い。


俺はジャンを下敷きにしたまま、また目を閉じた。


そうやって暮れていく一日、怠惰に過ごす方が贅沢な気がするんだ。

 

呟くべき言葉は一つだけ。
「ジャンと寝たい」って、それだけ。

 

俺はジャンの上で居心地のいい位置をみつけて、眠りに落ちる。
多分目が覚めたらお前はまた文句を言うだろうけど、後で聞くから。

 


これが夢だとしたら、なんて甘い夢だろう。

 

おやすみ、ジャン。


いい夢を。

 




















20100615


タイトルはsyrup16g。
もっと悲しい終りのためのタイトルなんだけど。
使いたかった。