child talk

 

 

 

 

 


新しいベッドが来た。
……九鬼さんの部屋に。


「おい、お前何想像してんだ」


えっ。九子菜さんが半目でこっちを見てる。


「なんでもないです。何も想像なんかしてません」
「嘘付け。……あれはここ来てからずっとあったから買い換えただけ。あいつ家具屋とか行くの面倒くさがるから俺が買った。OK?」
「なんで言い訳するんですか?」
「……だから、……もういいや」


九子菜さんが諦めた。
それから、悪戯っ子みたいな顔でにやっと笑って、指で僕に「こっち来い」ってした。
九鬼さんの部屋は、僕は勝手に入ったことはない。九鬼さんは「好きに使っていいよ」って言うけど、やっぱり私室に侵入するのはあんまりよくないんじゃないかなあ。本棚の本はすごく魅力的なんだけど。


「細かいこと言うなよ竜座。あいつのものは俺のものって言うだろ」
「言わないですよっ」


九子菜さんは、僕の部屋も全然自分のものって思ってるじゃないですか。
そう言ったら、九子菜さんはフンって顔で、当たり前だって言った。
当たり前かなあ?


九鬼さんは昨日からいない。どこへ行くとかは、聞いていない。
九子菜さんと留守番中なのだ。
怒られないのをいいことに、さっきホットケーキを30枚くらい(僕が)焼いて積み上げて、言い出した九子菜さんは2枚くらい食べて「もういい」って言った。しょうがないから保存したけど、あれは見つかる前に食べきらなきゃ。

 


九鬼さんの部屋は本当に散らかっているのを見たことがない。大体九子菜さんが散らかして、帰ってきた九鬼さんに怒られてる。あれは絶対わざとやってると思う。
二人でそーっと入った部屋は、やっぱり整っていて、塵ひとつ落ちていない。
寝室のドアを開けると、思わず「おおっ」て声が出た。
部屋の真ん中に、鎮座している。


「これがキングサイズベッド……」


僕が3、4人いても余裕で眠れそう。
僕のシングルサイズのベッドの3倍くらいの幅がある。


「竜座、」


え、って振り向いた瞬間僕は宙を飛んでた。
えええええええ?
九子菜さんが、ドアの辺りから僕をひっつかんで放り投げたのだ。
2メートルくらい宙を飛んだ。九子菜さん僕50キロはありますけど!?
どふっ、て音がして、僕は三回くらいバウンドした。
思わず声を上げて笑ってしまう。トランポリンみたい。いきなり投げられてびっくりしたけど、もう一回やってほしい。笑っていると九子菜さんも上から降ってきた。
大人げない!同じ反動が起きて、やっぱり二人で三回くらいバウンドした。
おおやっぱスプリング抜群、とか言ってる。ちょっと、重いです!!乗っかんないでください!


「絶対見つかったら怒られますよ!」
「見つかんないよーに留守のうちに運んだんだろ」
「自分の買えばいいじゃないですか」
「だって塁我のだからいいんだろ。俺のベッドで俺が遊んでても全然楽しくない」
「その理論意味がわかんないんですけど…」


って言ってる間もずっと笑ってる。
これって多分、「見つかったら怒られる」っていうところがポイントなんだ。
誰も気にしなかったら、悪いことってしても面白くない。
なので僕達はせっせと九鬼さんの留守中に悪事を溜め込む。


「これ何回寝返り打てるかな……」


僕は端っこに移動して、ごろんと転がった。あれみたい、体育のとき使ってた一番大きくてぶ厚いマット。あれよりも何倍もふかふかしてるけど。あのマットって、二階くらいの高さから飛び降りても平気なんだよね。
ごろごろ転がっていると、九子菜さんにぶつかった。二人で大の字になっていてもまだ余ってる。


「ベッドの端が遠い……」
「降りなきゃいい」


そういう問題じゃないです!


「晩飯、何食いたい?」
「ビーフストロガノフ」
「おおいいな。じゃ、ヨロシク」


よろしくって言うなら聞かないでくださいよって僕もわかってるのにやっぱり言う。
九鬼さんがいないときは、僕がご飯を作る。あんまり上手いとは言えないけど、九子菜さんは絶対文句を言わない。ところでビーフストロガノフってどうやって作るんだろう?


そういう生活。九子菜さんは放っておくとジャンクフードばっかり食べるから、仕方なく九鬼さんがキッチン担当になったって言ってた。


「相方がブクブク太ったりしたら、やっぱりイヤだからね…」
「バッカ、こんな滴るよーな色男が太るわけあるか。なあ?」


なあって言われても、突っ込みようがない僕はハイって言うしかない。
だから俺のいない時は矢崎くんがよく見張っててねって言われた。
なのに一緒になって遊んでしまっている。……まずいなあ。


「……やっぱ変更。ストロガノフやめて、違うのにする」


ジャンクなのはダメですよ、って言おうとしたら、九子菜さんが音をたてて頬にキスした。
うわ。


こんなところに食材が。とか言ってるっちょっとオッサンかあんた!!


思わず内心敬語が外れたけど気にしてる暇がない。
じたばた暴れて、反撃を試みるも敵に損害を与えられない。
くそっ!


「すぐ帰ってくるから、いい子にしてろ」


って九子菜さんが言うから僕は反抗をやめる。
多分すごく埃が舞ってるだろう部屋の中は、その主がいない。
今すごく九鬼さんに見つかって怒られたいな。


「後で腹減ったらピザ食おっか?」


ここで食べたらいいんじゃねえの。行儀悪くて、と九子菜さんが言う。
ダメですよって言いながら、九子菜さんもおんなじなんだなあ、と僕は思う。

 


だって、九鬼さんがいなかったら。

 

 


全然悪戯甲斐がないじゃないですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

END

 

 

 

 

 

20111023